このシリーズではでは、介護の諸問題について解説した書籍「介護危機 ―「数字」と「現場」の処方箋」について要約しつつ、時おり知的障害者支援とも比較してお話します。
書籍は2017年発行で少し古いですが、参考になると思います。
今回は、人材不足の実態についてです。
アイスブレイク
(今週のお題「人生変わった瞬間」)
アイスブレイクではきちほーしのことをよく知ってもらうため、はてなブログの「今週のお題」をヒントに、本題と少し外れたお話をします。
今週のお題は「人生変わった瞬間」です。
きちほーしが変わったのはYoutube大学見てからですかねー。
Youtube大学を見て続いてお金の大学を読んで、投資とか副業とかを実践するようになりました。
こうやってブログ書いてるのも、今は趣味ですが、もともと副業でやってみようと思ったからです。
いやぁ、学ぶって大事ですね!
はじめに
心配性のきちほーしが憂う!障害者支援施設は安心!?
どうも!きちほーしです!
きちほーしの子キチノは知的障害があります。
いずれ障害者支援施設などにあずける日が来るでしょうが、サービスの基盤である事業者の経営に無理が生じればサービスの低下につながります。
そこで心配性のきちほーしは、介護の諸問題について扱った書籍「介護危機 ―「数字」と「現場」の処方箋」を読みました。
障害者支援と介護は異なりますが、認知力や判断力が弱い人を支援するという点で共通しており、問題点も共通していそうだからです。
このシリーズでは、この書籍について、その概要と、きちほーしが参考になったところをピックアップし、要約して紹介します。
今回は介護職の人材不足についてです。
本記事の範囲
この記事では第2章「なぜ、介護職12万人、財源1.5兆円が不足するのか」の1部を要約してお話します。
数字で見る介護職の人材不足
ここでは介護職の人材不足の実態を、数字で示します。
古いデータですが参考になると思います。
介護職の需給差: 12万人不足(2017年見込)
2017年見込のデータですが、介護職の受給は以下のようになっています。
- 介護職の需要(2017年見込): 207万人
- 介護職の供給(2017年見込): 195万人
およそ12万人が不足しています。
増加数は要介護者が介護職員の3倍
介護職員の増加と、要介護者数の増加について、2000年から2013年を比較すると以下のとおりです。
- 介護職員: 50万人→170万人(120万人増)
- 要介護者: 218万人→564万人(346万人増)
要介護者の増加分が介護職員の3倍近くで、需要のスピードに供給が追いついていません。
介護業界は全業界よりも2倍人材不足
有効求人倍率とは、求職者1人あたり何件の求人があるかを示すもので、数が大きいほど人手不足であることを意味します。
古いデータですが、「介護人材の確保について(厚労省:平成27年2月23日)」にある2004年~2013年の有効求人倍率を見てみます。
すると、全産業が0.47~1.06の間で推移しているのに対し、介護分野は1.10~2.31で推移しています。
参考までに2004年、2008年、2013年のデータを抜粋すると以下のようになり、2008年以降は介護分野が全産業の倍以上をキープしています。
人材不足の直接の理由は「採用難」
「介護人材の確保について(厚労省:平成27年2月23日)」によれば人材不足の理由に関するアンケートは以下の通りです。
理由 | 割合(%) |
---|---|
採用が困難 | 68.3 |
事業拡大したいが人員が確保できない | 19.3 |
離職率が高い | 17.5 |
その他 | 7.2 |
「採用が困難」も「事業拡大したいが…」も新たな人材の獲得が困難であることを意味しています。
合わせると87.6%。
「離職率が高い」の17.5%と比べると5倍以上になります。
訪問介護は特に不足
「人員の不足感」は訪問介護の方が施設介護よりも多い
訪問介護事業所と施設介護事業所それぞれの人員の不足感は以下のとおりです。
2009年 | 2010年 | 2011年 | 2012年 | 2013年 | |
---|---|---|---|---|---|
訪問介護(%) | 33.0 | 34.0 | 37.6 | 38.1 | 42.0 |
施設介護(%) | 9.7 | 12.6 | 15.7 | 18.2 | 22.7 |
訪問介護のほうが施設介護より圧倒的に高いことがわかります。
訪問介護の高齢化
2006年と2015年の介護職の平均年齢について、全介護員の平均と訪問介護員の平均を比較すると以下のとおりです。
2006年 | 2015年 | |
---|---|---|
全介護員の平均年齢(歳) | 42.6 | 46.3 |
訪問介護員の平均年齢(歳) | 48.7 | 53 |
訪問介護員の方が平均年齢が高く、60歳以上が占める割合も15.2%から36.4%に増えています。
介護員の高齢化は若年者が介護業界を選んでいないことを示しています。
介護現場の問題点
介護員にインタビューしたところ、最も多かったのが「労働内容に給与額が見合わない」「生活費が足りない」の2つでした。
もう少し詳しくお話します。
長時間の夜勤
「労働内容に給与額が見合わない」というのは給料の割に負担が大きいということです。
そして介護で一番負担が大きいのが長時間の夜勤です。
この夜勤は退職理由としても多く挙げられています。
「2015年介護施設夜勤実態調査」によれば介護員の6割近くが「勤務時間16時間以上」と報告されています。
真夜中に勤務せざるをえず、タクシー通勤が必要になるケースもあります。
また、夜勤には若年者が割り当てられる傾向がありますが、その若年層が減少しているため夜勤の人材はさらに不足します。
「夜勤をしなければ生活ができない」という意見があるのですが、その夜勤が耐えれないため離職に繋がってしまっています。
給与が低い
「生活費が足りない」というのはつまり給与が低いということですが、給与が低い理由は2つ考えられます。
介護業界は利益率が低い
介護報酬は法律で定められ、対価の上限が決まっています。
そのうえ事業所としての運営基準が定められ、経費の削減策も限界があります。
収入も支出も制限されているため、利益率は低くなりがちなのです。
組織規模の小さい業者が多い
ただ筆者は制限があっても収益をあげられると考えています。
それは組織規模を大きくしスケールメリットを得ることで効率化し、必要な利益を確保できると考えています。
その一方で小さい事業所が多く、筆者は戦略としてスケールメリットを考慮しない事業所側の責任と捉えています。
人材不足の根本的な理由
長時間の夜勤や給与は人材不足の直接的原因ですが、なぜ長時間の夜勤や人材不足になっているのか?
筆者は4つの理由を挙げています。
介護需要の急増
高齢者の急増によって人材確保が追いついていないため、必然的に長時間労働が増えてしまいます。
製造業であれば需要が増えれば価格が上がるなどの市場原理が働くのですが、介護業界は行政により制限されるのでそうはなりません。
介護業界は中小・零細企業が多い
介護業界は中小・零細企業が多く、給与体系やキャリアパスが整っておいません。
そのため、人材獲得競争で他の業界に勝てないのです。
労働時間の短い非正規雇用が多い
2015年の介護業界は、非正規雇用の割合が5割以上で、訪問介護は8割ほどです。
非正規雇用は一般的に労働時間が短く、その分人員管理のコスト効率が悪くなります。
外国人労働者のコミュニケーションの壁
介護施設で働く外国人労働者が利用者とのコミュニケーションをとれないために辞めてしまう事例があります。
このように外国人労働者に配慮されておらず、人材獲得が難しくなっています。
なお、本書籍は2017年発行なので、コロナや円安の影響は考慮されていません。
現在はコロナや円安の影響で、外国人労働者の供給がますます厳しくなっていることは想像に難くありません。
おわりに
今回は介護職の人材不足についてお話しました。
要介護者は介護職員よりも早いスピードで増加し、2017年は介護職は12万人不足しました。
介護業界は採用難で、全業界よりも倍ほど人材が不足しています。
国が勧める訪問介護は施設介護よりも不足し、若年層から人気もないため高齢化のスピードも施設介護より進んでいます。
介護スタッフは長時間の夜勤、低い給与を主な問題と捉えています。
そしてその問題を引き起こす根本的な原因は介護需要の急増、中小企業が多いこと、非正規雇用の多さなどが考えられます。
次回は介護職の人材不足についてもう少し掘り下げてお話します。
(参考)書籍概要
タイトル
介護危機―「数字」と「現場」の処方箋
発売日
2017/6/14
著者
宮本 剛宏
概要
介護人材の不足、行政の財源不足の2つの問題が叫ばれる今、介護の自己責任が問われはじめている。
大きな選択肢となるのは「自宅か施設(老人ホーム)か?」。
全ての人が「最期まで自宅で過ごしたい」という願いを実現できるわけではない。
介護業界における問題の本質を暴き、豊富な現場データと実体験をもとに、個人・行政・企業が取組むべき処方箋を提言。
目次
◆第1章 介護の現場で起きていること―介護職の声と顧客データから何がわかるか―
◆第2章 なぜ、介護職12万人、財源1.5兆円が不足するのか
◆第3章 毎年5割成長する介護企業の秘密
◆第4章 こうすれば介護の人材・財政不を解消できる
◆第5章 それぞれの「希望」をかなえるビジネスモデル