障害者の就労環境に革命をもたらす「福祉を変える経営」は、宅急便の生みの親である小倉昌男さん(2005年没)の貴重な著書です。
本シリーズでは、その著書の中からその核心を引き出し、障害者の未来の働き方について探求していきます。
時代が障害者の月給1万円を当たり前とした中、小倉さんはスワンベーカリを興し、月給10万円を実現させました。
更に、彼は全国の共同作業所に向けて「経営パワーアップセミナー」を展開し、その道の先駆者として自ら壇上に立ちました。
2003年に刊行された「福祉を変える経営」は、そのセミナーのレジュメを文字に託したものです。
本稿では、前回に引き続き、障害者就労の新たな地平を切り拓く経営のエッセンスに焦点を当てます。
前回は、低賃金の障害者就労施設が抱える問題点、小倉さんが提唱する「ノーマライゼーション」についてお話しました。
今回は経営のおおまかなポイントに迫ります。
経営における付加価値の創出方法やデメリットをビジネスチャンスへと昇華させる戦略、そして購買者の視点を重要視する理由について、詳しく解説していきます。
本書は20年ほど前に執筆されたものでですが、共同作業所や就労継続支援施設の経営者、また自立を志すご両親にとっても、今なお示唆に富む内容と言えるでしょう。
障害者の自立への願いを抱く経営者や親御さんにとって、貴重な示唆を提供することでしょう。
きちほーしは、障害者の就労に関わるすべての人々に、この興味深い探求の旅にご参加いただくことを歓迎します。
未来への一歩を踏み出すための洞察と知識を、共に深めていきましょう。
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- 本記事の範囲
- 資本主義の市場経済とは
- 経営のポイント
- 時代に合わせた経営を
- 付加価値の付け方
- ライバルの出現はいいことだ
- デメリットあるところにビジネスチャンスあり
- 買い手の立場で考えよう
- 売り手の立場で考える事業は破綻する
- 買い手の立場で考えた障害者就労事業を
- おわりに
- 書籍概要
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小倉さんのことは書籍「障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。」で知りました。
この書籍のピックアップ記事もあるので、読んでみてください。
障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。 カテゴリーの記事一覧 - きちほーし勉強できるかな?
また、「福祉を変える経営」についてはこちらを御覧ください。
福祉を変える経営 カテゴリーの記事一覧 - きちほーし勉強できるかな?
本記事の範囲
第2章「福祉を変える経済学」の一部を要約してお話します。
資本主義の市場経済とは
日本は資本主義の国で、市場経済の国です。
だから日本で障害者が自立するためには、市場経済を理解するのが良いでしょう。
市場経済とは、原料・エネルギー・労働力を買って、有用な製品やサービスを生み出すことです。
以下では、他にも市場経済に関わることをお話していきます。
賃金とは何か?
賃金もモノの売買と同じで、労働力を買って製品を作ってもらっています。
そういう意味では人件費も市場で売買されているのです。
そして賃金の高い低いは労働力への需要で決まります。
労働力として能力が高ければ値段が高く、低ければ値段も低くなります。
障害者が賃金を高めるためには?
だから障害者も賃金を高めるには能力を高める必要があります。
例えばPCの導入。
これの訓練をすれば高めることができるでしょう。
(きちほーし注)上記はあくまでも小倉さん時代の見解だと思われます。
今の時代PCの導入は当たり前の時代なので、逆に導入しないと健常者との差はますます広がっていくでしょう。
もっと時代に合わせて、例えばChatGPTやBardなどの生成AIを活用していくことが重要になると思います。
経営のポイント
作ることよりも売ることが大事
市場経済では作ることより売ることが重要です。
売れなければ作っても意味がないどころか赤字がふくらむ一方です。
売れる仕組みを考えることが「経営」の入口なのです。
経営のポイントは決して難しくない
経営のポイントは、お客さんの欲しい物を用意すること、コストを下げること、売り物の在庫を決して切らさないこと。
これだけです。
大学で教えてもらうようなことではなく、我々が生活している時にしょっちゅう体験していることです。
そして就労施設の経営者は、障害者の方々と儲かる仕組みを考えて作り、実行する。
これが経営なのです。
なぜ「売り物を切らさない」のか?
ちなみに「売り物を切らさない」理由は販売の機会を逃さないためです。
お客さんがせっかくお店に入っても、棚に商品がないと他の店に逃げて言ってしまいます。
在庫を切らさないような供給体制の構築がポイントになります。
時代に合わせた経営を
今(小倉さん時代)は三次産業の時代
一次産業、二次産業、三次産業という言葉があります。
一次産業は、農業・漁業・鉱業などの原材料を取得し商品とする産業です。
二次産業は、原材料を加工し商品とする産業。
三次産業は、商品を消費者に届けたり、金融など直に物を作らないサービス業です。
小倉さんは、日本は二次産業の時代が終わり三次産業、つまりサービスの時代だと考えたようです。
(*きちほーし注)あくまでも小倉さん執筆時の見解だと思われます。
時代に合わせた事業とは
小倉さんが目につけたパンやカフェの最大のサービスとは、「ほかよりもおいしい」ということでした。
だから小倉さんが展開したカフェ事業のスワンカフェは「おいしいエスプレッソコーヒー」を目指しました。
スタバなど大手チェーンよりさらにおいしさを追求しようと、スタバと同じ豆を輸入するようにしました。
スタバが船便で運ぶと聞いたので、こちらは航空便で運ぶようにしました。
このように時代に合わせて目標を定め、ライバルに勝つ方法を考えて実践してきたのです。
(*きちほーし補足)四次産業というのもあります
ちなみに、小倉さんの時代から20年たった今、四次産業というものもあるようです。
小倉さんは三次産業の時代なので三次産業の事業を考えましたが、四次産業時代の今は四次産業の事業を考えないといけないかもしれませんね。
じゃぁ四次産業って何なの?
これについては次回お話します。
付加価値の付け方
小倉さんが展開したパンやカフェの事業では「おいしさ」を追求しましたが、もちろんそれだけがサービスではありません。
例えば食品業の場合、パッケージを大きくしたり小さくする、それだけのこともサービスなのです。
家族向けにパッケージを大きくしたり、独身者向けにパッケージを小さくしたり。
冬場に合わせて温めたり、夏場に合わせて冷やしたり、そういったこともサービスです。
他の店でなくうちの店にお客さんを呼べるサービスはなんだろうかと考える、これが付加価値なのです。
ライバルの出現はいいことだ
自分たちで良い商売を開拓すると必ずライバルが出現する、これは市場経済の常です。
そしてこれはいいことなのです。
ライバルが出現するということは儲かるいい商売だと認められた証拠です。
さらに、自分たちの商品をお客さんたちに認めてもらえるチャンスでもあるのです。
もちろんライバルが出てただぼんやりするのではなく、次の付加価値を考えなければなりません。
小倉さんがヤマトの宅急便を初めたときもライバルが多く出現しましたが、社員たちにそう教えていたそうです。
ここで「競争がつらいね」となって、売り手同士が競争をやめると「談合」になってしまいます。
デメリットあるところにビジネスチャンスあり
成功したビジネスは真似される
成功したビジネスのマネは簡単です。同じメリットを追求することは結局「真似」することに行き当たります。
だからあえてデメリットに着目するのも「付加価値」を講じる手段の一つです。
デメリットゆえに誰も手を付けない市場は、デメリットを克服することで未開拓の大きな市場になるかもしれません。
ポイントはデメリットをどう克服すれば利用者が喜ぶかを考えることです。
かつて宅急便はデメリットだらけだった
小倉さんが日本に宅急便という事業を開拓しました。
宅急便とは、つまり家庭から発送したり家庭へ配送したりする「小口配送」のことです。
この「小口配送」の事業は、宅急便が展開される前の時代はデメリットだらけでした。
その当時、多くの運送会社は小口配送を避け、企業間の配送を主とする大口配送に注力していました。
大口だから売上は大きいし、販路は限定されるのでドライバーの数も負担も少なくて済む、顧客ニーズは少数の担当者に聞けば良い。
これに対して小口配送は売上が小さいし、大口とは比較にならないくらい細かな配送網が必要で、客のニーズも多種多様です。
多くの顧客がいないと稼げないし、ライバルは郵便局の独占状態で、行政も郵便局に有利なものでした。
それでも小倉さんはそんな小口配送のデメリットを克服し、宅急便事業を開拓していったのです。
デメリットの克服方法=やってみる
デメリットが多すぎてなかなか解決策が出てないときは「できることからやってみる」ことがポイント。
そして失敗したら失敗しない方法を考える。
逆にやらないと進歩がない。
客に受け入れられるかどうかも、やってみなければわからない。
それが小倉さんが経験で得た持論です。
買い手の立場で考えよう
自分が消費者になったら、どういう物やサービスで喜ぶか、それを考えるのが経営です。
ここではもう少し具体的に、小倉さんが宅急便事業を開拓したときのエピソードを踏まえてお話します。
当時の宅急便のライバルは郵便局
小倉さんは宅急便を開発した当時、小口配送といえば郵便小包しかありませんでした。
届くのに数日かかり、価格体系も複雑でした。
荷造りは客側がしなければならず、配送中に荷物が壊れると客側の責任になります。
小倉さんは主婦の立場で考えた
小倉さんは宅急便のお客さんを主婦と定め、主婦の立場になって考えました。
送った荷物は明日届いてほしいし、料金もわかりやすくあってほしい。
梱包材も普通の家庭にはありません。
さらに主婦の立場になって考えます。
「荷造り?乱暴な運転しなきゃ壊れないわよ。プロでしょ!?」
「荷造りが必要?だったらあんた(運送会社)がやりなさいよ!」
主婦ならこんな不満が飛び出しそうです。
日々不満が商売の種になる
このように買い手の立場で考え、その不満に応えることを商売の種にして宅急便は生まれました。
買い手の立場になるとその不満に気が付きます。
自分が日々不満をぶつけたいことが商売の種になるのです。
売り手の立場で考える事業は破綻する
売り手の都合を押し付けるてはならない
小口配送のサービスが郵便局しかなかった時代、郵便局(事業者側)は以下のようにお客さんに訴えていました。
「荷造りちゃんとしないと出さないよ」「壊れても弁償しませんよ」「配送にはどうしても5日はかかりますよ」。
こういった事業者の都合は、お客にとってはただの言いわけでしかありません。
絶対にやってはならないと小倉さんは言います。
逆に宅急便はこういったことを克服すると、それが付加価値になります。
小倉さんはこうやって、郵便局からお客さんを奪っていったのです。
「計画経営」は売り手の論理
前回も触れましたが、小倉さんが低賃金の就労施設の経営者たちに話を聞くと、「福祉的就労」という名の「計画経営」がまん延していました。
つまり、多くの就労施設で障害者が作れるカンタンなモノを、障害者に合わせて短い労働時間で作っていたのです。
これは完全に売り手の都合で考えた商売です。
買い手の立場で考えた障害者就労事業を
国の補助や寄付金を頼りに事業を行っても、それは顧客不在の事業で、絶対に儲かる事業にはなりません。
儲からないから賃金も低くなり、従って障害者も自立できません。
市場経済においては、本当に消費者が欲しい物やサービスを考え・供給することが、障害者の自立につながるのです。
買い手の立場で障害者就労事業を考えて、障害者の自立を目指してほしい。
それが小倉さんの願いのようです。
おわりに
本稿では、前回に引き続き、障害者就労の新たな地平を切り拓く経営のエッセンスに焦点を当てました。
今回は経営のおおまかなポイントとして、経営における付加価値の創出方法やデメリットをビジネスチャンスへと昇華させる戦略、そして購買者の視点を重要視する理由について、詳しく解説しました。
次回(すぐには投稿しませんが、数週間後になると思います)は、より細かな経営のポイントについてお話します。
書籍概要
タイトル
発売日
2003/10/09
著者
概要
お役所頼みで補助金頼りの福祉政策では障害者の幸せは実現できない! いまこそ「もうかる経営」を実践して、障害者が「自分で稼いで生きていける」仕組みを完成すべきだ! 宅急便の生みの親にして、数々の国の規制と戦った小倉昌男元ヤマト運輸会長が、みずからの私財を投入したヤマト福祉財団を率い、福祉の世界の革命に乗り出した。
「福祉」の美名のもとに、いっこうに障害者の幸せにつながらない今の福祉政策を徹底的に論破し、自ら考案した焼きたてパン販売事業や製炭事業の伝道で障害者施設のビジネスに経営力をつけさせ、毎年多くのセミナーで福祉関係者に「経営」の真髄を伝授する。
真の市場主義者にして民主主義者、小倉昌男のほんとうの「ノーマライゼーション」社会を実現させるための理論と実践の一冊!
目次
第1章 障害者の自立を目指そう!私の福祉革命(ヤマト福祉財団について 私が福祉の仕事に就いた理由 ほか)
第2章 福祉を変える経済学(「福祉的就労」という言葉のウソ 「福祉的経済」という経済は存在しない ほか)
第3章 福祉を変える経営学(経営とは「収入-経費=利益」を理解すること 「良いモノをつくれば売れる」は間違いです ほか)
第4章 先進共同作業所の経営に学ぼう(パン製造・販売(スワンベーカリー十条店)―立地の悪さをアイデアで克服
豆腐製造・販売など(はらから福祉会)―手作り豆腐で月給五万円 ほか)
おまけ
(今週のお題「苦手だったもの」)
ここではきちほーしのことをよく知ってもらうため、はてなブログの「今週のお題」をヒントに、本題と少し外れたお話をします。
今週のお題「苦手だったもの」です。
きちほーしが苦手だったもの。
というより面倒だったもの。
それは運動です。
きちほーしは運動が苦手。
ましてや筋トレとかなんのためにやるの?っていう感じでした。
それが今やダイエットのために積極的に行っています。
もっというと寝たきりにならないため・長寿になるために行っています。
人間変わるもんですね~。