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小倉昌男の挑戦!障害者就労の課題とヤマト福祉財団の革新的な取り組み - 書籍「福祉を変える経営」ポイントピックップ2

このシリーズでは、宅急便の生みの親である小倉昌男さん(2005年没)の著書『福祉を変える経営』から、重要なポイントをピックアップ・要約してご紹介します。

かつて障害者の月給が1万円という時代に、小倉さんはスワンベーカリを立ち上げ、月給10万円の実現を果たしました。

さらに、小倉さんは全国の共同作業所を対象に「経営パワーアップセミナー」を展開し、自らも講師として活躍しました。

この本は、彼のセミナーのレジュメを活字にしたものです。

20年も前の本ですが、共同作業所や就労継続支援施設の経営者にとっては今でも非常に参考になるはずです。

また、自立を望む障害者を持つご両親にとっても貴重な情報が詰まっています。

障害者の自立を目指す経営者やご両親の皆さん、ぜひこの本を読んでみてください。

 

今回も前回に引き続き、20年前に小倉さんが感じた問題点についてご紹介します。

小倉さんがなぜ「経営パワーアップセミナー」を展開したのか、その内容はどのようなものだったのかもお話しします。

 

また、20年前の問題点が現在どのように変化しているのかについても触れます。

「きちほーしの補足」では関連情報を補足し、さらに「きちほーしの横槍」では現状に対する私見や感想をお話します。

関連記事

小倉さんのことは書籍「障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。」で知りました。

この書籍のピックアップ記事もあるので、読んでみてください。

障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。 カテゴリーの記事一覧 - きちほーし勉強できるかな?

また、「福祉を変える経営」についてはこちらを御覧ください。

福祉を変える経営 カテゴリーの記事一覧 - きちほーし勉強できるかな?

本記事の範囲

第1章「障害者の自立を目指そう!私の福祉革命」の一部を要約してお話します。

なお、本記事では日本の行政や福祉事業の問題ついて触れていますが、あくまでも書籍発行(2003年)当時かそれ以前の話です。

それが20年以上も前の過去の話であればただの笑い話ですが、現在もなお続くのであれば解決すべき大きな問題です。

そのあたりにも注意すると、福祉の世界をよりよくするヒントになるかもしれません。

 



 

障害者は差別ととなりあわせ

小倉さんは障害者はいまだに差別ととなりあわせと感じていたようです。

(あくまでも小倉さん時代の話です。今はどうでしょうか?)

施設の建設は町を挙げて反対される

一生懸命資金を集めて共同作業所の建設申請をしようとすると、とたんに町を挙げて反対運動がおこります。

「施設の意義は認めるが怖い。うちの町内に作ることは反対する。」などと差別的な発言をぶつけられます。

法律は女性差別を禁止するが障害者差別は禁止しない

障害者基本法には「国民は障害者の施設に対して理解しなければならない」としか書かれておらず、罰則は特にありません。

いわゆるセクハラ、つまり女性差別が法律で禁じられているのに、障害者差別が禁じられていないことに、小倉さんは疑問を感じました。

きちほーしの補足: 反対運動の実例

書籍「障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。」に登場した「ほのぼの屋」や「NO-MA」も反対運動に遭っていました。

どちらも2000年代設立の施設です。

 

少なくとも2000年代は本当に大変だったようですね。

反対運動の名残なのか、きちほーしの近所の施設も町外れでよく見かけます。

きちほーしの補足: 2016年障害者差別禁止法が制定

2016年には障害者差別禁止法が制定されたようです。

恥ずかしながらきちほーしは知りませんでした。

ChatGPTさんによれば「障害者施設建設の反対運動に対しては、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処されます」とのことです。

現在では施設の新設も以前よりやりやすくなったようですね。

小倉さんが目指すもの

真のノーマライゼーション

国連が’75年に障害者の権利宣言をし、日本では’95年に厚生省(現・厚労省)が「ノーマライゼーション7カ年戦略」を発表しました。

しかし障害者を街中で見かけない日本には見えない差別があり、「ノーマライゼーション」はかけ声だけです。

 

「あらゆる障害者が健常者と肩を並べ、街に出て仕事をし、人生を楽しめる社会」

 

これが真のノーマライゼーションだと小倉さんは言います。

「稼げる障害者」はノーマライゼーションの第一歩

障害者が健常者と肩を並べるには、仕事で自立できるだけの給料を得ることではないか。

その手始めとして共同作業所をデイケアではなく仕事の場と位置づけ、稼げるところにするべきではないか。

小倉さんはそう考えました。

きちほーしの横槍: 小倉さんが描いていたビジョンとは

以前にもお話しましたが、小倉さんは障害者の給料10万円の事業を成功させた方です。

素晴らしい偉業です。

ですが、それも小倉さんにとっては「手始め」にすぎなかったようです。

 

言われてみると給料10万円だって確かに不十分です。

なぜなら高卒者の平均月収22万円(2021年)の半分以下だからです。

しかも給料10万円を達成しているのはほんの一握りで、ほとんどの障害者がやはり1万円以下です。

 

そして前述の通り街中で障害者をあまりみかけません。

障害者の施設も街の外れにばかりにある印象です。

施設を建てる際に近隣住民の反対運動が起こるという話もよく聞きます。

 

そう思うと給料10万円は小倉さんが描いていたビジョンの第一歩にすぎないんですね。

健常者と肩を並べる給料、障害者が堂々と歩ける街。

これが小倉さんの最終ゴールなのかもしれませんね。

経営セミナーをスタートさせよう

 

共同作業所の職員たちは多くがボランティアで働いていて、その精神はとても立派です。

ですが前回お話したように、経営に対する努力に欠けていると小倉さんは感じたようです。

経理の努力とは、自分たちの仕事を稼げる事業にし、障害者にいきいきと働いてもらい自立できる給料を払えるようにすることです。

 

こうして小倉さんは、真のノーマライゼーションの第一歩として、共同作業所の運営者を対象にした経営セミナーを開くことにしたのです。

公益財団法人ヤマト福祉財団の活動

ここでは書籍の内容をベースに、小倉さんが設立された公益財団法人ヤマト福祉財団の主な活動についてお話します。

あくまでも小倉さん時代のものなのでご参考程度に。

きちほーしが軽く調べた限りではあまり変わっていないようです)

セミナーの概要

「月収1万円からの脱出」を目的に、障害者施設の運営者に経営を教える「経営パワーアップセミナー」を毎年開催しています。

助成金奨学金もある

共同作業所等の障害者施設を対象とする施設助成金がを用意しています。

障害を持つ大学生向けに奨学金も用意しています。

障害者雇用支援事業を展開

パン屋の「スワンベーカリー」や、木炭の製造・流通の「スワン製炭」「スワンネット」などの事業を展開しています。

いずれも障害者を雇用し、経営も成功して「月収1万円からの脱出」もしている事業です。

経営パワーアップセミナーの概要

書籍の内容をベースに、小倉さんの時代に行われた経営パワーアップセミナーの概要をお話します。

参加費などの詳細はあくまでも小倉さん時代のものです。

今は変わっているかもしれません。

現在の内容はこちらでご確認ください。

セミナーの旅費・宿泊費は財団が負担する

セミナーは2泊3日です。

参加者は資料代5000円以外は一切無料。

旅費・宿泊費はヤマト福祉財団が負担します。

セミナーは2コース

セミナーは以下の2コースがあります。

  • 生産力アップコース
    • 具体的なビジネスの紹介をすることで生産力をアップすることが目的です。
  • 運営力アップコース
    • 経営をはじめ、共同作業所の運営に必要なことを勉強します。

生産力アップコースの概要

‘00年のコースの例では、生産力アップコースは以下の通りでした(カッコ内は講師)。

  • 経営学総論(小倉さん)
  • 冷凍パンを使ったパン屋の開き方(スワンベーカリー店長)
  • 木炭づくりの解説(炭焼きのプロ)
  • 豆腐づくりの解説(豆腐のプロ)
  • 流通業によるモノの売り方について
  • 茶店弁当屋など飲食サービスのやり方

運営力アップコースの概要

  • 経営学総論(小倉さん)
  • 国の障害者政策について(専門家)
  • 会計指導・複式簿記の勉強(専門家)
  • 精神障害者・重度障害者のケアについて

きちほーしの補足: 今はライブ配信もしているようです

セミナーは全国各所でやっているようですが、それでもなかなか行けない人にはライブ配信もあるようです。

 

ただセミナーは参加者の交流会も兼ねているようなので、時間がとれれば会場参加の方がいいかもしれませんね。

 

きちほーしは施設関係者でもなんでもないので参加はできませんが、講座はちょっと興味ありますね^^。

セミナーの最後に

 

 

最後のテーマ「共同作業所からの脱出」

セミナーの最後のテーマは小倉さんからのお願いの時間。

それは「共同作業所から脱出させてください」です。

障害者たちはさっさと作業所を卒業して、一般企業などで働くのが理想です。

共同作業所は障害者をしっかり育ててほしい

共同作業所は、いつまでも障害者を過保護にお客さん扱いしないでほしい。

自立心が芽生えず、一般社会に出ていく勇気が育たないという現実があります。

 

もちろん企業や社会が障害者を受け入れる体制を充実させることもポイントです。

ですが、障害者側が動かなければ社会も動かないのです。

 

 

きちほーしの横槍: 現在の就労状況

小倉さんの時代から20年たった今、障害者の就労状況はどのようになっているでしょうか?

軽く調べてみました。

支援校高等部卒業者の一般就労率は3割

厚労省のデータをまとめたこちらの記事によると、支援校高等部を卒業した知的障害者の一般就労率は3割ほどだそうです。

逆に言うと6割ほどは依然として就労できず、福祉施設生活保護になるようです。

一般就労率3割って本当?

またある支援校の実績値はわずか6%(コロナ期は1~2%)という話もありますので、疑い深いきちほーしは3割という数字すら怪しく見えてしまいます。

きちほーしの近所の支援校でも「卒業しても一般就労なんて夢のまた夢」という話を聞いています。

そこのPTAでは就労支援施設の見学をよくする一方で、一般就労先は見学候補にすら挙がっていません。

一般就労してもすぐ辞めてしまう可能性がある

労働可能な障害者全体に対して働いている人は8%(2017年)という話もあります。

したがって、支援校高等部卒業者の一般就労率3割が正しいとしても、就労後すぐに辞めてしまう問題があるのではないでしょうか。

就労支援施設の8割は卒業できない

ちなみに福祉施設である就労継続支援施設B型は職業訓練所ですが、こちらの記事によればそこから一般就労へ移行する率は1割強だそうです。

 

  就労継続支援B型 就労継続支援A型 就労移行支援
平成28年 11.4 23.2 48.3
平成29年度 11.7 22.7 52.9
令和元年度 13.2 25.1 54.7

上の表を元にザッと計算すると、就労継続支援施設および就労移行支援施設の利用者の8割が一般就労できずに残る計算になります。

小倉さん時代よりは多少マシになった程度?

支援校卒業者の一般就労率は徐々に改善されているかもしれません。

ですが、まだ大半の卒業者が一般就労できず、一般就労できたとしても定着せず、就労支援施設に入っても卒業できず。

小倉さんの時代よりは多少マシになったかな~…、というのがきちほーしの印象です。

(つづく)

書籍概要

 

 

タイトル

福祉を変える経営

発売日

2003/10/09

著者

小倉昌男

概要

お役所頼みで補助金頼りの福祉政策では障害者の幸せは実現できない! いまこそ「もうかる経営」を実践して、障害者が「自分で稼いで生きていける」仕組みを完成すべきだ! 宅急便の生みの親にして、数々の国の規制と戦った小倉昌男ヤマト運輸会長が、みずからの私財を投入したヤマト福祉財団を率い、福祉の世界の革命に乗り出した。

「福祉」の美名のもとに、いっこうに障害者の幸せにつながらない今の福祉政策を徹底的に論破し、自ら考案した焼きたてパン販売事業や製炭事業の伝道で障害者施設のビジネスに経営力をつけさせ、毎年多くのセミナーで福祉関係者に「経営」の真髄を伝授する。

真の市場主義者にして民主主義者、小倉昌男のほんとうの「ノーマライゼーション」社会を実現させるための理論と実践の一冊!

目次

第1章 障害者の自立を目指そう!私の福祉革命(ヤマト福祉財団について 私が福祉の仕事に就いた理由 ほか)

第2章 福祉を変える経済学(「福祉的就労」という言葉のウソ 「福祉的経済」という経済は存在しない ほか)

第3章 福祉を変える経営学(経営とは「収入-経費=利益」を理解すること 「良いモノをつくれば売れる」は間違いです ほか)

第4章 先進共同作業所の経営に学ぼう(パン製造・販売(スワンベーカリー十条店)―立地の悪さをアイデアで克服

豆腐製造・販売など(はらから福祉会)―手作り豆腐で月給五万円 ほか)

 

おまけ

今週のお題「朝ごはん」)

ここではきちほーしのことをよく知ってもらうため、はてなブログの「今週のお題」をヒントに、本題と少し外れたお話をします。

今週のお題は「朝ごはん」です。

 

前回も言いましたがきちほーしは一日一食しか食べてないので、朝ごはんは食べてません。

食べるのは夕食だけですね~。

 

ちなみに障害者さんたちが働くレストランとかあるのですが、平日のランチだけやっているところがほとんどです。

きっと障害者さんが長時間働けないとか、支援者の都合とかで、そうならざるを得ないんでしょうね。

そんなわけで、きちほーしは食べに行きたい気持ちもあるのですが、それも難しくなってしまいました。

 

ファスティングしている人が増えてる印象があるので、きちほーしのように障害者さんのレストランとニーズがマッチしない人が増えていくんじゃないでしょうか。

外食以外のビジネスもやってくれたらなーと思うビジネス素人のきちほーしです。