このシリーズでは、介護の諸問題について解説した書籍「介護危機 ―「数字」と「現場」の処方箋」について要約しつつ、時おり知的障害者支援とも比較してお話します。
書籍は2017年発行で少し古いですが、参考になると思います。
今回は前回に引き続き、人材不足の実態についてです。
前回は介護職(実際に介護をする人)が不足していることについてお話しました。
今回は管理職・経営職の問題点についてです。
アイスブレイク
(今週のお題「人生変わった瞬間」)
アイスブレイクではきちほーしのことをよく知ってもらうため、はてなブログの「今週のお題」をヒントに、本題と少し外れたお話をします。
今週のお題は「人生変わった瞬間」です。
前回は直近の人生が変わった瞬間についてお話しましたが、今回はもう一つ前の瞬間についてお話します。
それは我が子に知的障害があると確定した日です。
結果を聞かされた直後は「障害は一時的なもの。ちょっと訓練すれば健常児になる」と思っていました。
ですがどうやら障害とは先天的なもので、訓練で多少マシになっても健常児に追いつくとかいうものではなかったようです。
それをようやく受け入れられるようになった日に、きちほーしは障害福祉とかいろいろなものを勉強するようになりました。
勉強ばかりでなかなか行動に移せていないですが、なにかできることがないか、模索しているところです。
本記事の範囲
この記事では第2章「なぜ、介護職12万人、財源1.5兆円が不足するのか」の1部を要約してお話します。
管理職の問題点
介護保険制度では、各事業所に一人の管理者を置くことが定められています。
そして筆者の経験上、管理職のマネジメント能力が事業所の成果や労働環境を左右します。
ここでは管理職にどんな能力が求められているか、管理職が不足している原因は何か、についてお話します。
管理職に求められる能力
管理職に求められる能力は、人材マネジメント、営業力、業務マネジメントの3つがあります。
この章ではそのそれぞれを細分化します。
見ていただくと分かる通り、規模が小さいだけでやっていることは管理者というよりはほぼ運営者です。
人材マネジメント
人材マネジメントの詳細は以下のとおりです。
- メンバが成果を出せるように働きかける
- 教育による能力開発
- モチベーション管理
営業力
営業力の詳細は以下のとおりです。
- 自社を選んでもらうようにする
- 営業目標を設定・達成する
- クレーム対応
- 採用力
業務マネジメント
業務マネジメントの詳細は以下のとおりです。
管理職が不足しやすい土壌
筆者の経験では管理職の存在が特に重要です。
しかし介護業界では管理職が不足しています。
この章では介護業界で管理職が不足している要因についてお話します。
介護職に偏った採用事情
介護業界の採用事情は管理職より介護職に重点が置かれすぎているというのが筆者の見解です。
雇用する側が管理職の採用に力を入れていないため、管理職志望の学生がいても介護業界以外を選ぶようになってしまいます。
加えて介護職に重点を置くのは求職者も同様のようで、管理職志望は非常に少ないという印象です。
中途採用で管理職の素養がある人に管理職を勧めるのですが、それでも介護職を希望するケースが多いようです。
管理職教育の文化がない
管理職志望が少ない上に企業側も管理職を育てようとしません。
介護業界では他業界のマネジメント経験が役に立つとは限らないので、管理者教育はかなり大事なのです。
ですが新卒採用した組織でマネジメント教育を施していないケースが多く、管理者教育の投資にあまり力が入れられていないと筆者は言います。
経営者の問題点
介護業界においては経営者にも色々問題があります。
この章では経営者の問題点についてお話しています。
安易に起業し廃業していく組織が多い
以前の記事でもお話しましたが、介護事業の起業・撤退は比較的簡単にできてしまいます。
その結果、介護事業所の多くが社員10人以下の小規模組織になってしまいます。
そして成長戦略も持たず安易に起業してしまうため廃業する事業所も多く、利用者・従業員が次の事業所を求めてさまようようになってしまいます。
小規模事業所が多いため人材が根付きにくい
事業所が小規模であると経営効率が悪く、従業員も根付きにくい組織になってしまっています。
ある社会福祉研究者によれば、離職率の低い事業所は「大規模な事業所で人事異動があり風通しが良い」とのことです。
つまり、介護職に人材が根付くには、ある程度の組織規模とキャリアパスを積める環境が必要なのです。
しかし小規模な事業所では、長期的な教育や評価制度の導入がどうしても困難になります。
介護現場をしらない異業種の参入が失敗
ある時期は保険や警備などの異業種大手が介護企業を買収するケースが多くありました。
大企業なので雇用や教育に十分な投資が可能なのですが、介護職のマネジメントに失敗するケースが少なくありません。
筆者はその原因を以下のように捕らえています。
- 介護現場の経営者が現場を知らない親会社の指示をそのまま実践してしまう
- 現場の現状を詳細に理解できていない
- 現場の経営課題を把握しようとしていない
- 現場の管理職・介護職に新会社の文化が根付かない
介護業界のイメージが悪い理由
介護業界の人材不足を解消するには、求人者に介護業界を選んでもらうことがポイントの一つです。
ですがどうも介護業界のイメージは良くないようです。
ここではそのイメージを悪くする理由についてお話します。
「やりがい」を前面に出す
介護業界では人材を獲得するために、多くの企業が経営理念に「思いやり」「優しさ」「利用者第一主義」などの美辞麗句を並べています。
このような精神論だけではモチベーションが上がらず、逆に「ブラック企業のポエム」などととらえられて、かえってイメージを悪くしがちです。
これで人材を逃してしまっている企業が多く見られます。
中小企業が多く、給与が低いイメージ
介護業界は生活費を賄えないほど報酬が低いことがクローズアップされています。
これは中小・零細企業が多いことが理由だと筆者は捕らえています。
実際に小規模デイサービスは都内でも手取り15万円以下の介護職も少なくありません。
しかも施設介護の場合は介護利用者が増えて頑張ったとしても給与が一向に上がらないケースが多く、転職を考えさせてしてしまいます。
ここまでくると給与が低いイメージというより、実際に給与が低いんですね。
中小企業が多く、労働環境が悪いイメージ
労働環境が悪い企業が多いことも介護業界のイメージを悪くしています。
中小が多いせいか給与が低いだけでなく人材への投資もほとんどない企業が多く、そのため介護業界のイメージが悪くなっています。
良くないのは介護の仕事そのものではなく企業なのです。
キャリアパスや教育制度が整い、雇用・労働環境が十分に整った企業を増やないと介護業界のイメージは向上しないと筆者はいいます。
おわりに
まとめ
今回は管理業界の管理職・経営職の問題点についてお話しました。
それぞれまとめると以下のとおりです。
まず管理職に求められる能力は以下の通りで、小規模な経営者といった印象があります。
- 人材マネジメント
- 営業力
- 業務マネジメント
実際には以下の点で管理職が不足しやすい土壌になっています。
- 介護職に偏った採用事情
- 管理職教育の文化がない
経営者の問題点は以下のとおりです。
- 安易に起業し廃業する組織が多い
- 小規模事業所が多いため人材が根付きにくい
- 介護現場をしらない異業種の参入が失敗
介護業界のイメージが悪い理由
- 「やりがい」を前面に出し、かえって悪いイメージを持たれる。
- 給与が低く労働環境が悪くなりがちな中小企業が多いため、悪いイメージを持たれる。
感想
今回のお話では小規模事業所が多いことが課題の一つに挙げられていました。
そのためコストパフォーマンスが悪く、キャリアパスも築きにくい。
この書籍が発行されたのは2017年。
コロナ前だし、テレワークも普及していません。
ただ今日はテレワークが普及しています。
この環境を活かして複数の小規模事業所をまとめあげて、大規模事業所のような組織を提供することはできないのでしょうか。
例えば遠隔で管理や教育を提供できないんでしょうかね。
もしそれができれば、介護やそれに類似しているであろう知的障害支援の問題もある程度解決できるのではないかと思います。
ではまた!
(参考)書籍概要
タイトル
介護危機―「数字」と「現場」の処方箋
発売日
2017/6/14
著者
宮本 剛宏
概要
介護人材の不足、行政の財源不足の2つの問題が叫ばれる今、介護の自己責任が問われはじめている。
大きな選択肢となるのは「自宅か施設(老人ホーム)か?」。
全ての人が「最期まで自宅で過ごしたい」という願いを実現できるわけではない。
介護業界における問題の本質を暴き、豊富な現場データと実体験をもとに、個人・行政・企業が取組むべき処方箋を提言。
目次
◆第1章 介護の現場で起きていること―介護職の声と顧客データから何がわかるか―
◆第2章 なぜ、介護職12万人、財源1.5兆円が不足するのか
◆第3章 毎年5割成長する介護企業の秘密
◆第4章 こうすれば介護の人材・財政不を解消できる
◆第5章 それぞれの「希望」をかなえるビジネスモデル