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アール・ブリュットに学ぶ、障がい者の稼ぎ方と自立への道2 – 書籍「障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。」6

障がい者の自立的な働き方について考えることは、多様な社会を実現する上で欠かせません。

このシリーズでは、自律的に働く障害者たちにスポットを当てた書籍「障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。」についてグッと要約してお話します。

 

前回は、障害者たちが取り組むアート活動「アール・ブリュット」の中心的存在であるボーダレス・アートミュージアムのNO-MAの創設者である北岡賢剛さんの経歴を中心にお話しました。

今回は、NO-MAが世界展開し、日本にアール・ブリュットを根付かせた功績についてお話しします。

また、障がい者がアートに取り組める環境を提供する能登川作業所の取り組みにも触れます。

障がい者たちの自立的な働き方を支援するにはどうすればいいか?

NO-MAと能登川作業所の事例から学びましょう。

はじめに

 



きちほーしの子どもキチノには知的障害があります。

だから障害者がどんな風に世の中に受け入れられる仕事をするのか、とても興味があります。

参考にしようときちほーしが見つけたのが、障害者による「稼いで自立」の成功例を紹介する書籍「障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。 」です。

この本では、障害者たちが「稼いで自立」にいたるまでをまとめたドキュメンタリーな内容になっています。

雑誌の記事のように取材したことを淡々と書くのではなく、文章に味付けをして障害者たちがとてもカッコよく描かれています。

 

登場する障害者たちはどうやって成功したのでしょうか?

それぞれがどんな活躍をしているのでしょうか?

 

今回は前回に引き続き、障害者たちが取り組むアート活動「アール・ブリュット」についてお話します。

本記事の範囲

この記事では「CASE3 福祉×芸術=アール・ブリュット ──試みの先にあるもの──」の一部を要約してお話します。

ボーダレス・アートミュージアムNO-MAの活躍

NO-MAの躍進

北岡さんの行動で日本とスイスの美術交流が生まれた

本を読んでみるとボーダレス・アートミュージアムNO-MAの創設者 北岡賢剛さんの行動力は「すさまじい」の一言です。

 

2004年にNO-MAを開館し、その2年後にはスイスのアール・ブリュット・コレクションという美術館を訪れたそうです。

アポなしで、最初は不審な画商かと不穏な空気が流れたものの、北岡さんが澤田真一さんの作品を取り出して空気が一変。

館員から「WAO!」という感嘆の言葉が飛び出し、館長のリュシエンヌ・ペリーも「日本にはこんな優れた作品があるのか?」というほど。

美術業界では本来なら館長に直接作品を持っていくには大使館を通すのが当たり前で、北岡さんの行動は外交問題になったかもしれないようです。

そんなことを知らない北岡さんのこの突撃が功を奏して、アール・ブリュット・コレクションとNO-MAの連携事業がスタートしたのです。

スイスからフランスへ

連携事業スタートほどなくしてリュシエンヌ館長が澤田真一さんの現場を訪問。

2008年にはスイスで日本の作品を展示し、日本でスイスの作品を展示するコラボレーション展が開催されました。

さらにスイスで展示した作品がフランスのアル・サン・ピエール美術館の目に留まります。

こうして2010年に日本人64人940点の作品を展示する「アール・ブリュット・ジャポネ展」が開催されました。

 

きちほーしもテレビや書籍で色んな起業家を知りましたが、福祉かどうかに関わらず、新しい分野を切り開くにはこういう行動力が大事なんですね。

そして日本へ逆輸入

海外での成功を経てようやく日本へ逆輸入され、埼玉、新潟、愛知、岩手を巡回するようになりました。

さらに2014年には厚労省が「障害者の芸術活動支援モデル事業」を実施し、各地にアール・ブリュット専門拠点が設置されるようになりました。

逆に言うと逆輸入されるまでは、障害者の作品は芸術というより福祉の一環と捉えられがちで、行政もウチの管轄ではないと袖にしていたとのことでした。

 

こういう風に、最初日本では評価されず、海外で評価されて初めて日本で評価され始めるというのはよく聞くエピソードですね。

日本人のきちほーしが日本人を批判するのも変ですが、日本は新しい分野を開拓するのが難しい風土なんでしょうね。

NO-MAの苦労1: 慣れない美術館業務

目覚ましい活躍を見せるNO-MAですが、一方で様々な苦労もあったようです。

スタッフは美術の素人ばかり

北岡さんをはじめNO-MAのスタッフはそういうことを知らない素人ばかり。

例えば美術作品の作品管理一つとっても温度管理が重要。

仮設の壁やエアカーテンを設置したり、職員が泊まり込み24時間体制で室温管理するなどの苦労がありました。

10倍以上に膨れ上がる輸送費

一番困ったのが作品の輸送費。

好評で出展が増えたのは嬉しい悲鳴ですが、当初800万円ほどの予算をとっていた輸送費が、いざやってみると9000万円ほどに膨れ上がったのでした。

未経験業務ばかりでスタッフの疲労の色が濃くなったものの、展示会場での作品お披露目で一気に場が盛り上がるのを見て疲れが吹き飛んだのでした。

NO-MAの苦労2: 地元住民の反対

地元住民の反対でグループホーム断念

実はNO-MAの設立当初は障害者施設そのものが地元住民にはあまり歓迎されていませんでした。

NO-MAとは別に障がい者グループホームを設立しようとしていたのですが、地域住民の反対で断念したのです。

「子供を傷つけたらどうする」「地価が下がる」といった言葉さえも出てくるほどでした。

地域交流でNO-MAのボランティアを買ってくれるように

グループホームの建設反対を味わった経験からNO-MAでは地道に夏祭りやワークショップなど地域交流を実践してきました。

それが功を奏したのか、NO-MA近所のおじちゃん・おばちゃんたちが監視員やボラティンアを買ってくれるようになったのです。

 

京都府舞鶴市の「ほのぼの屋」でも似たような問題があって、地道な地域交流で受け入れられるようになりました。

福祉事業の店舗を展開する際には、通常の店舗展開にはない「地元民との交流」のステップが必須のようですね。

NO-MAの真の目的

アール・ブリュットが日本でも受け入れられるようになって喜ぶ反面、NO-MAの目的はアール・ブリュット振興ではないと、NO-MAの斎藤誠一さんは言います。

支援がなくても障害者たちはこんな素晴らしいことができることを、世の中の人達の観点を変えることが目的なのだと。

 

これも「地元民との交流」と似たステップなのかもしれません。

福祉事業の店舗を展開する際に重要なステップとなる「地域交流」は、いわば地元住民の偏見を払拭するためのステップです。

同様に障害者への偏見なく障害者の能力を受け入れてもらうには、まず障害者たちの実力を知ってもらうことが大事なのでしょう。

能登川作業所から学ぶ障害者アート支援の実情

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生活介護の一環として創作活動を導入

能登川作業所東近江市にある作業所で、平成20年に社会福祉法人GLOWに事業が市より譲渡されました。

所長は大道隆和(だいどうたかかず)さん。

2011年頃から生活介護の一環として創作活動を導入しました。

今では食事が終わると利用者みんなが思い思いに創作活動を始めるそうです。

「感動したこと」を発表し合う職員会議

能登川作業所の職員会議は毎月「できなかったこと」ではなく「感動したこと」を発表します。

こうすることで利用者さんの得意分野を見つけていくのだそうです。

 

これは福祉の現場でなくても普通の職場に取り入れても良さそうですね。

例えば「ありがとう」の気持ちを伝えられるサンクスカードを渡し合う取り組みがいくつかの企業でされているそうです

「感動したこと」を発表する場はこれに似た取り組みと思われます。

作品による収入について

工芸作品やアイテムのデザインもよく、雑貨屋で購入すれば数千円しそうなオブジェがワンコイン価格で売られていたりもします。

中には喫茶店に飾っていた作品を売って欲しいという申し出もあったようですが、作者本人の意思を確認するのが難しい状況でもあります。

 

現状作品の売上は作品本体に加えポストカードやTシャツを販売したりして月平均2万円程度。

夏祭りのような行事があるでも5万円ほどです。

 

年商2億円に届いた「がんばカンパニー」のクッキーを食べたときも感じましたが、障害者さんの作る商品・作品は上質なのに非常に安い印象があります。

きちほーしもこの本を読むまでは「もしかしたら障害者もアート方面に行けば健常者なみに稼げるかも?」と思いましたが、甘かったようです。

障害者さんの実力をもっと知ってもらい、障害者の地位をもっともっと上げることが課題かもしれませんね。

社会との接点を持つことが大切

ただ作業所として主張しているのは売ることよりも伝えることを大切にしたいという点です。

たとえ売れなくても、面白がってくれる人たちが障害者たちの表現や言動に関心を寄せて何らかの動きをしてくれるだけでも意義がある。

能登川作業所ではそう考えているようです。

 



書籍概要

タイトル

障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。 ソーシャルファームという希望

発売日

2020/03/17

著者

姫路まさのり

概要

障がい者は低賃金が当たり前って、おかしくない?
予約の取れないフレンチレストラン、年商2億円、奇跡のクッキー工場、IT、ワイン醸造にアートetc

「稼いで自立」の成功例を紹介する、とっても大事な「お金」の話。

目次

  • CASE1 10万円で働き方が変わる ──予約の取れないフレンチレストラン──
  • CASE2 生きがいの分配 ──年商2億円に届いた奇跡のクッキー──
  • CASE3 福祉×芸術=アール・ブリュット ──試みの先にあるもの──
  • CASE4 ワインとIT ──本当の自立とは何か──

おまけ

今週のお題「何して遊ぶ?」)

ここではきちほーしのことをよく知ってもらうため、はてなブログの「今週のお題」をヒントに、本題と少し外れたお話をします。

今週のお題は「何して遊ぶ?」です。

ツイッターでも書きましたが、健常児は友達と遊びに行くのに対し、自閉症の子供は友達を作らないので親がいつまでも遊び相手にならないといけません。

GWは毎日わが子キチノに付き合っていました。

今は平日よりも休日の方が重労働ですね…^^;。