「福祉を変える経営」という書籍は、宅急便の生みの親である小倉昌男さん(2005年没)によって書かれたものです。
このシリーズではその書籍のポイントをピックアップ・要約してご紹介していきます。
小倉さんが立ち上げたスワンベーカリは、障害者の月給1万円以下が当たり前だった時代に、月給10万円を実現したことで知られています。
さらに小倉さんは、全国の共同作業所を対象に「経営パワーアップセミナー」を展開し、自らも講師として活躍されました。
「福祉を変える経営」は、そのセミナーのレジュメをまとめたものであり、2003年に出版されました。
本書は古いものではありますが、現在でも共同作業所や就労継続支援施設の経営者にとっても大変参考になると思います。
また、自立を望む障害者を持つ親御さんにとっても参考になるお話が詰まっています。
障害者の自立を目指す経営者や親御さんは、ぜひ本書を読んでみてください。
なお、書籍発行は20年も前ですので、当時と今とでは状況が異なっているところもあるります。
「きちほーしの補足」ではそれに関する補足情報についてお話します。
また「きちほーしの横槍」では現状に対する私見や感想を書きます。
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小倉さんのことは書籍「障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。」で知りました。
この書籍のピックアップ記事もあるので、読んでみてください。
障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。 カテゴリーの記事一覧 - きちほーし勉強できるかな?
また、「福祉を変える経営」についてはこちらを御覧ください。
福祉を変える経営 カテゴリーの記事一覧 - きちほーし勉強できるかな?
書籍概要
タイトル
福祉を変える経営
発売日
2003/10/09
著者
概要
お役所頼みで補助金頼りの福祉政策では障害者の幸せは実現できない! いまこそ「もうかる経営」を実践して、障害者が「自分で稼いで生きていける」仕組みを完成すべきだ! 宅急便の生みの親にして、数々の国の規制と戦った小倉昌男元ヤマト運輸会長が、みずからの私財を投入したヤマト福祉財団を率い、福祉の世界の革命に乗り出した。
「福祉」の美名のもとに、いっこうに障害者の幸せにつながらない今の福祉政策を徹底的に論破し、自ら考案した焼きたてパン販売事業や製炭事業の伝道で障害者施設のビジネスに経営力をつけさせ、毎年多くのセミナーで福祉関係者に「経営」の真髄を伝授する。
真の市場主義者にして民主主義者、小倉昌男のほんとうの「ノーマライゼーション」社会を実現させるための理論と実践の一冊!
目次
第1章 障害者の自立を目指そう!私の福祉革命(ヤマト福祉財団について 私が福祉の仕事に就いた理由 ほか)
第2章 福祉を変える経済学(「福祉的就労」という言葉のウソ 「福祉的経済」という経済は存在しない ほか)
第3章 福祉を変える経営学(経営とは「収入-経費=利益」を理解すること 「良いモノをつくれば売れる」は間違いです ほか)
第4章 先進共同作業所の経営に学ぼう(パン製造・販売(スワンベーカリー十条店)―立地の悪さをアイデアで克服
豆腐製造・販売など(はらから福祉会)―手作り豆腐で月給五万円 ほか)
本記事の範囲
第1章「障害者の自立を目指そう!私の福祉革命」の一部を要約してお話します。
なお、本記事では日本の行政や福祉事業の問題ついて触れていますが、あくまでも書籍発行(2003年)当時かそれ以前の話です。
それが20年以上も前の過去の話であればただの笑い話ですが、現在もなお続くのであれば解決すべき大きな問題です。
そのあたりにも注意すると、福祉の世界をよりよくするヒントになるかもしれません。
きちほーしの補足:本編へ入る前に
共同作業所と就労継続支援施設B型の違い
いきなりきちほーしの補足です。
20年前に出版された本書では共同作業所について取り上げていますが、今は就労継続支援施設が主流なのでその違いをお話します。
ちなみに本来は就労継続支援施設は一般就労に向けた職業訓練の場であるのですが、ほとんどの方が卒業できていないようです。
項目 |
共同作業所 |
就労継続支援施設B型 |
対象者 |
||
就労支援 |
少ない |
多い |
工賃 |
低い |
高い |
就労時間 |
1日6時間以内 |
1日8時間以内 |
就労日数 |
週3日以上 |
週5日以上 |
利用料 |
無料 |
有料(利用者負担) |
運営主体 |
民間事業者、NPO法人、市区町村 |
民間事業者 |
どちらも自立からはほど遠い
B型は工賃が1万円以上ですが、健常者から見れば共同作業所と大差ありません。
後述の「自立」からほど遠いという意味では、小倉さんが取り上げた共同作業所の問題はB型にもあてはまると思われます。
ちなみに就労継続支援施設のA型は月給7万円ほどですが、経営が難しく閉鎖するケースが多いと聞いています。
障害者の現状
日本は障害者が住みづらい国
「私は障害持って生まれたことを不幸と思わないが、日本に生まれたことを不幸だと思う。」
ある障害者が言ったと伝えられる言葉だそうです。
そして小倉さんも日本の現状を見て、この言葉はただの言い伝えではなく中身のある言葉だと思ったようです。
街中で障害者をみかけないことのおかしさ
日本の身体・知的・精神の障害者はおよそ600万人。1億以上いる日本の全人口のおよそ5%ほど。
これは街中に100人が出かければ5人は障害者になる計算です。
でもあまり街中で見かけません。
これは障害者がまだまだ表に出にくい社会だからだと思うのです。
きちほーしの横槍: 皆さんの街では障害者を見かけますか?
上記は小倉さんが20年以上前に感じたことです。
今はどうでしょうか。
皆さんの街では障害者を見かけているでしょうか。
障害者が出かけても不安にならない街でしょうか。
障害者が一人で出かけても、事故の心配も、差別の心配も、迷惑がられる心配もない街でしょうか。
少なくともきちほーしの街はそうではありません。20年経ってもあまり変わっていないようです。
障害者就労施設の現状
親たちが作った共同作業所
小倉さんの時代の法定雇用率は1.8%もない状態で、社会に出れない障害者が大量に発生。
共同作業所はわが子を社会に出したい障害者の親たちが作った就労施設なのです。
共同作業所が当初かかげていた目的
共同作業所が設立された当初は以下の活動を目的にしていました。
- 障害者に仕事を教える
- 作業所内でさまざまな事業を行う
- お金を稼ぐ!
障害者の月給は1万円以下
小倉さんは共同作業所の目的を聞いて「立派じゃないか!」と感心しました。
しかし月給が1万円以下であることを知り愕然としたそうです。
時給に換算すると100円以下。場合によっては50円以下です。
年80~100万円の障害年金と合わせても「自立の道は遠い」と感じたようです。
当初の目的からかけ離れてしまった共同作業所
共同作業所の目的を聞いた小倉さんは「立派じゃないか!」と思ったのですが、現実はかけ離れていました。
- 月給はたった1万円。
- 「円」ではなく「銭」単位で、繁閑のある下請け作業(*)ばかり。
- 自主事業もするが売れないものばかりを生産。
(*)小倉さんは下請けは立派な仕事と思っていますが、不安定で実入りが少ないため月給が少なくなることを指摘しています。
共同作業所の自主事業 「こんなの売れるわけがない」
20年前に小倉さんが共同作業所で見て「こんなの売れるわけがない」と思ったものは、例えばこんな感じです。
- 牛乳パックを溶かして作ったハガキ
- 1枚200円。売れるわけがない。
- 天ぷら油の廃油を固めた石鹸
- 戦後貧しい頃の製法。大手メーカーの石鹸に勝てるわけがない。
- 工場で余った木っ端や布切れで作ったブローチやお手玉
- 100~150円で売る。売り物にならない。
- さをり織り・陶器の茶碗
- まだマシだがそんなに売れない。
- (障害者ではなく)職員が製作したクッキー
他にも空き缶潰しなどがあります。
「デイケア」が主目的になってしまっている
共同作業所の元々の目的は障害者に仕事を教えて稼ぐことだったはずです。
ですが小倉さんが職員に経営について聞くと「我々がやっているのは福祉の仕事で企業活動ではない」と言います。
どうやら親御さんに変わって子どもの面倒を見る「デイケア」が主目的になっているようです。
作業所が「デイケア」ではいずれ破綻する
デイケアは昼間だけ障害者のお世話をします。それ以外は親御さんがお世話をします。
つまり親御さんが亡くなった後は生活できなくなるのです。
小倉さんが親御さんに話を聞くと皆が「この子を残して安心して死ねない」と訴えたとのことです。
現在の障害者の親御さんも、同じ思いではないでしょうか。
共同作業所の多くが赤字経営
共同作業所の多くは補助金やカンパがないと成り立たない赤字経営です。
(*きちほーしの補足)日本の年金がどんどん下がっていることは皆さんご存知だと思います。
これは日本の税収・年金収入では福祉への支援が低下しているからです。
同様に障害者への支援である補助金やカンパが低下していくことは想像に難くありません。
場合によっては障害者たちが路頭に迷うことになるでしょう。
きちほーしの横槍: 20年前と変わらない施設もある
上記の自主制作品、きちほーしの近所の就労継続支援施設で見たことがあります。
支援校のバザーでも見かけたことがあります。
買いはしますが、9割は「寄付」のつもりで買っています。
その一方で、リーズナブルな価格でパンやお弁当を販売しているところも少なからずあります。
そこでは、1割は寄付のつもりですが、9割はニーズにマッチしています(きちほーしは昼食を食べないので買いませんが)。
ちゃんと「経営」している店も出てきている一方で、20年前と変わらない施設もまだまだあるようです。
きちほーしの横槍: クッキーを売っているところもあるけれど
以前の投稿で、がんばカンパニーが障害者施設でクッキーを作ったさきがけだというお話をしました。
ここのクッキーは本当においしくて、普段食べるにはお高めですがそれでもリピートしたくなります。
パッケージもクッキーの見た目もきれいで、贈答品にも使えそうです。
一方、クッキーを売る多くの障害者施設はあまり買おうとは思えません。
手のひらサイズの袋にクッキーが詰め込まれて300円。
もっとボリュームがあって100円台の大手メーカーのクッキーと比べると自分用に買う気にはなれません。
おいしいので来客用になりそうですが、パッケージやクッキーの見た目が素人感満載でやっぱりお客には出せません。
なんだか成功者の仕事だけ真似していて、経営を真似していない気がします。
(経営素人のきちほーしが偉そうに言っていますが)
行政の現状
以下に小倉さんが感じた行政の現状をお話します。
あくまで小倉さん時代の話で、今は違うかもしれませんが、変わらないかもしれません。
無計画に施設だけ作る
行政は施設を作ることに熱心で、施設で何をするかは無頓着。
いわゆる箱もの行政が横行しています。
行政にとって福祉事業とはただのやっつけ仕事で、障害者の幸せのためにあるわけではないのです。
低すぎる法定雇用率
障害者雇用促進法では、日本の企業は常用労働者の何%かの障害者を雇用しなければなりません。
いわゆる法定雇用率です。
小倉さんの時代は罰則もなかったので、法定雇用率1.8%以下の企業がほとんどでした。
法定雇用率は5%は必要
前述のように、日本人の5%は障害者です。
したがって法定雇用率も5%ほどは必要だと、小倉さんは言います。
きちほーしの補足: 現行の法定雇用率でも不十分('23/06/28修正)
小倉さんの時代から法定雇用率も増え、2023年現在は2.3~2.5%です。
それでも小倉さんが理想とする5%にはまだまだ届きません。
違反金を支払って障害者雇用をしていない会社もあるので、実際はもっと低いでしょう。
さらに重度障害者は2人分としてカウントしているので、人口比率はもっと低いはずです。
その結果障害者の雇用状況はどうなっているでしょうか。
きちほーしがしっているデータは以下の2つです。
- 厚労省発表では支援高卒業者の内、一般就労できたのは32%
- ある支援校の実績値は高等部の卒業者の内、一般就労できるのはわずか6%(コロナ期は1~2%)
- 全国に労働可能な障害者は750万人いて、そのうち働いている人は約60万人(8%)(2017年現在)。
日本人の5%が障害者で、一般企業の雇用率が2%程度であれば障害者の40%は雇用されてもいい計算です。
この中での最高値は高卒者の30%ですが、それでも40%には届いていません。
そして全体的な一般就労率になると8%です。
どうしてこんなにずれるのでしょうか?
もしかして法定雇用率20%くらいにしないと小倉さんの理想には届かないのでしょうか?
共同作業所の「おかしな」認可制度
あくまでも小倉さん時代の話ですが、小倉さんは共同作業所の認可制度に疑問を感じていました。
手厚い支援
厚労省は共同作業所に認可を出してくれます。
認可されると職員の給料や設備への補助金も出してくれます。
設備には作業用の機械や、障害者送迎のバスなどが含まれます。
厳しすぎる認可基準
手厚い支援の認可制度ですが、小倉さん時代には全国約6000箇所の共同作業所のうち、認可されたのは600箇所たらず。
これだけ少ないのは、共同作業所が認可されるには以下のような条件があるからです。
- 土地があること
- 建物があること
建物に関してはさらにこんな条件があります。
- 20人以上収容できること
- 障害者1人あたり15.8平米の面積があること
つまり認可されるためには土地と立派な建物を立てるお金が必要だったのです。
金持ち優遇の認可基準で格差が拡大
障害者施設や老人ホームは、お金持ちが税金対策で作るケースが多いです。
そうして作られた施設に補助金が下りて、建物への補助金はもちろん、設備や人件費の補助金を得ることができます。
こうして資金ある施設がさらに資金を得て、立派な建物・設備・優秀な職員を得ることができます。
逆に資金がないと補助金もないので、みすぼらしい建物で設備も職員もろくに整わない施設になります。
こうして資金がある人とない人とで格差を拡大する制度になっているのです。
認可作業所と無認可作業所の仕事の格差
設備補助のある認可作業所では、例えばクリーニング用の大きな設備が買えます。
立派な設備があるので、クリーニングの仕上がりにうるさいホテルや病院の仕事を請け負うことができます。
一方で設備のない無認可作業所は仕上がりにさほど厳しくない、例えばラブホテルのタオルのような仕事しか請け負えません。
このように無認可の作業書は、タダ同然の設備や原材料でできる仕事しかできないのですし、当然収入も違います。
多くの認可の作業所は意欲がない
認可作業所の多くは税金対策で作ったもので作業意欲がない。
実際小倉さんが見学したところ、その感想は「建物も設備も立派。でもそれだけ」だそうです。
送迎バスが何台もあり建物も設備も立派だが、朝礼で挨拶したり歌を歌うだけで、障害者も職員もぼうっとしていることが多かったようです。
(つづく: 次回は問題点の続きと、小倉さんの取り組みについてお話します)
目次
おまけ
(今週のお題「朝ごはん」)
ここではきちほーしのことをよく知ってもらうため、はてなブログの「今週のお題」をヒントに、本題と少し外れたお話をします。
今週のお題は「朝ごはん」です。
朝ごはんは…、食べてません^^;。
一日一食しか食べてないので朝ごはんは食べてません。
たまに空腹感が強い時はほうれん草と納豆を食べています。
強いて言うならそれが朝食かなぁ…。